2015年12月18日金曜日

二松学舎大学・研究プロジェクト『近代日本の「知」の形成と漢学』において報告を行いました

二松学舎大学の研究プロジェクト『近代日本の「知」の形成と漢学』(私立大学戦略的研究基盤形成支援事業)テーブルスピーチ(2015年12月17日 二松学舎大学)において、「日本漢文学プロジェクトの現状―見えてきた課題と今後の展望―」という報告を行い(報告者:合山林太郞)、プロジェクトの状況について説明を行うとともに、日本漢文学研究のあり方について意見交換を行いました。



2015年11月29日日曜日

第3回研究会を開催します

2016年1月9日(土) 午前10時30分~12時00分
大阪大学豊中キャンパス文学研究科本館(4階)462教室
討議内容「日本漢文学研究史の“水面下”をひろう―先学へのインタビューを通して―」
(研究会は参加自由です。多くの方のご来場をお待ちしております。)

2015年9月6日日曜日

和漢比較文学会・海外特別例会において発表いたしました

中国・西北大学の関係者を含め、約40名の聴衆のなか、講演(中国語)及び2つのパネル・セッションを行い、活発な意見交換がなされました。浅見洋二氏による講演(中国語)では、中国詩学史における「唐宋之争」を踏まえながら、江戸漢詩における唐風と宋風の展開について、分析がなされました。パネルAでは、和習とも呼ばれ否定的に評価されてきた、漢詩における日本人固有の癖をどこまで肯定的に評価し得るか、という問題について、「故故」などの語をめぐって具体的な議論がなされました。パネルBでは、明治・大正期の漢文教育に関する資源の早急な収集の必要性や、日本における漢文学の文化史上の位置づけをめぐって、指摘及び討論がなされました。
趣旨説明プログラム

 
 
 
 
 
 
 
 

2015年7月31日金曜日

和漢比較文学会海外特別例会パネル趣旨

パネルA
Exophony(エクソフォニー・異言語文学)としての近世日本漢詩-唐風との関わりを中心に-
 福島理子 康盛国 新稲法子 鷲原知良

 「エクソフォニー(EXOPHONY、異言語文学)」とは、多和田葉子『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』(岩波書店、2003年)にキーワードとして用いられて広く知られるようになった語で、「母語の外に出ること」を意味する。ドイツで暮らし、ドイツ語でも創作活動を続けている氏が、自らの経験と重ねあわせつつ、母語以外の言語を用いて創作することを表現している。
 本パネルでは、近世漢詩史に新たな評価の軸と方法論を設けるべく、このエクソフォニーという概念を導入して、具体的には次の4つの分析を行う。①日本の詩人の語法には各々一種の癖が認められ、それが母語の文法や発想の影響のみならず、作者の志向や性情に起因し、時としてその本質に関わるものですらありうることを論じる。(福島)②十八世紀日本の漢詩壇において大きな影響力を及ぼした中国古文辞派が、朝鮮の文壇にいつどのような人物を通して伝播したかを概観し、日朝漢詩交流の場において古文辞派という共通項がどのように働いているかを示す例を紹介する。(康)③竹枝詞の日本化という現象から日本人の漢詩の嗜好を考察する。(新稲)④江戸後期以降の中晩唐の詩への評価を概観しつつ、日本の詩人は唐詩をどのように観念したかを検討する。(鷲原)
 ここで、重要な分析対象要素として浮かび上がるのが、描出対象をはじめ様々な点で日本との間で異質な唐詩である。異なる言葉や表象に積極的に「同化(Assimilation)」する詩派もあれば、そこから離れ、自らの生活や感覚により近い詩風を求める詩派、あるいはまた日本的な表現を試みるものもあった。すなわち、「地域化(Localization)」への傾斜である。近世漢詩史は、この「同化」と「地域化」の間に振れつつ、表現の可能性を模索した軌跡とみなすことができる。

パネルB
越境する日本漢文学研究-国際的・学際的な考察の促進に向けて―
 高兵兵 中本大 マシュー・フレーリ 町泉寿郎 合山林太郎

 戦後の日本漢文学史は、詩文を中心に、近代に作られた認識の枠組みである“文学”に沿うかたちで記述されてきた。また、多くの場合、日本国内の読者によって享受されることを前提として書かれている。その具体的なあり方に違いはあるが、漢詩文の持つ多様な性質の一面が強調されて理解されてきたことは間違いない。
しかし、本来、漢文学は、経史をはじめとする様々な学問や宗教などと密接につながっている。また、東アジアにおいて共有される漢詩文は、一国の枠の中では捉えられず、中国を含めた広域の文学として考えてゆかなければならないことも明らかである。
 本パネルは、複数の国際的・学際的な視点から、古代から近代に至るまでの日本漢文学をめぐる諸問題を捉え直し、新たな日本漢文学研究について議論しようとするものである。個別の発表内容として、①中国の唐時代と日本の平安時代における詩と文人、及び彼らを取り巻く都市文化についての比較分析(高)、②最新の歴史学及び中世文学の研究成果を踏まえつつ行う五山禅林文学の再評価(文化史的研究に限定するならば、絵画・和歌・連歌・唱導文芸との交感、出版など)(中本)、③日本漢学と漢文学の関係、及び近代における学問の制度に関する総合的な考察(町)、④欧米(英語圏)における日本漢詩文の研究・評価の沿革と文脈についての分析(フレーリ)、⑤近代文学や漢文教育と日本漢詩におけるキャノン・フォーメーション(正典形成、経典構成)の関係についての検討(合山)、の5つを予定している。
 近年、中国・日本両国において、東アジアにおける文化交渉や典籍流入などの観点から、日本漢文学を理解し直そうとする動きが盛んである。本パネルでは、こうした研究の潮流に対して、和漢比較文学の研究がなし得る貢献とは何なのか、また、今後の日本文学研究はどう対応していくべきか、といった問題についても考察を深める。

和漢比較文学会海外特別例会において講演及びパネル発表をいたします

中国・西北大学(西安)において開催される和漢比較文学会第8回海外特別例会(8月28日~9月1日)において、講演及びパネル・セッションを行います。詳細については、特別例会のホームページをご覧下さい。

■講演 (8月29日 13:30~)
浅見洋二 大阪大学
日本漢詩史における「唐」と「宋」
ASAMI Yoji, Osaka University
“Tang” and “Song” in Sinitic Poetry Written by Japanese

■パネルA (8月30日 9:00~10:30)
Exophony(エクソフォニー・異言語文学)としての近世日本漢詩-唐風との関わりを中心に-
Analyzing the Sinitic Poetry of Edo-period Japan as Exophony: Focusing on Relationships with Tang Poetry

福島理子 帝塚山学院大学
語法から見る近世詩人たちの個性―唐調の詩人たちを中心に―
FUKUSHIMA Riko, Tezukayama Gakuin University
Idiosyncrasies of Connective Particle Usage in Edo Period Sinitic Poetry: Focusing on Poets of the Tang-shi Style

康盛国 大阪大学
日朝漢詩交流の場における古文辞派の存在-申維翰(シンユハン)の日本漢詩批評を例に-
KANG SungKook, Osaka University
The Significance of the Ancient Rhetoric School Style Poetry in the Cultural Exchange between Japan and Korea: Shin Yu-han’s Criticism of the Sinitic Poetry Written by Japanese Poets

新稲法子 佛教大学(非)
竹枝詞の変容―詩風変遷と日本化―
NIINA Noriko, Bukkyo University
The Localization of Zhuzhi-ci (Bamboo branch lyrics) in Japan: Changes in Poetic Style during the Edo Period

鷲原知良 佛教大学(非)
近世後期の詩人における中唐・晩唐
WASHIHARA Tomonaga, Bukkyo University
The Influence of Middle and Late Tang Poetry on Japanese Poets in the Edo Period

■パネルB (8月31日 9:00~10:30)
越境する日本漢文学研究-国際的・学際的な考察の促進に向けて―
New Frontiers for Studying Sinitic Literature Written by Japanese:
Interdisciplinary and Comprehensive Approaches to Kanbun Research

高兵兵 西北大学
古代日本漢文学と長安・洛陽
GAO Bingbing, Xibei University
Sinitic Literature Written by Ancient Period Japanese and Chang'an, Luoyang

中本大 立命館大学
日中世漢学および五山禅林文学を捉えなおす-「日本中世文学史」の新たな構築のために-
NAKAMOTO Dai, Ritsumeikan University
Re-examining Sinitic Poetry and Prose Written in Medieval Period Japan:
Focusing on the Activities of Muromachi period Zen Monks

マシュー・フレーリ ブランダイス大学
英語圏における日本漢文学研究の現状と展望
Matthew FRALEIGH, Brandeis University
Recent Trends in Anglophone Scholarship on Japanese Sinitic Literature

町泉寿郎 二松学舎大学
学術・教学の形成と漢学
MACHI Senjuro, Nishogakusha University
Kanbun Studies and the Formation of Modern Academics and Education

合山林太郎 大阪大学
日本漢詩における“名詩”とは何か
GOYAMA Rintaro, Osaka University
What is a great poem? : Canon Formation and the Sinitic Poetry of Japan

2015年4月20日月曜日

国際ワークショップ「幕末漢詩文の”かたち”」を開催しました

40名の参加者があり、活発な議論が行われました。隠逸の形象、和歌との関係、夫婦と漢詩、公と私、都市と漢文、文人のネットワーク、政治との関わりなど、様々な角度からの、幕末・明治初期の漢詩文に関する分析が提示されました。なお、ワークショップの内容につきましては、飯倉洋一氏、岡島昭浩氏、浜田泰彦氏、新稲法子氏らにより実況され、Togetterにまとめられていますので、ご覧下さい。→http://togetter.com/li/806625 →趣旨説明プログラム








2015年4月9日木曜日

国際ワークショップ「幕末漢詩文の”かたち”」(4/10)趣旨説明

 今回のワークショップは“かたち”という言葉をタイトルにしています。たとえば、円筒形の物体が、ある角度から見ると丸(○)に、しかし、別の角度から見ると四角形(□)に見えるように、事物はどの視点から見るかによって、その形を変えます。

 幕末の漢詩文も、まさにそのようなものではないかと思うのです。この時期の詩文は、大衆化が進み、職業的漢詩人、志士、政治家、儒学者、書生など、様々な人がその担い手となっています。どのグループ、あるいは、どの人々に焦点を当てるかによって、幕末の漢詩文の“かたち”は大きく変わってくるはずです。

 また、幕末期は、詩や文において様々な形式、すなわち、別の意味での詩文の“かたち”が花開いた時期でもあります。漢文では、都市風俗などを記述する繁昌記や「論」「記」などの小品が、漢詩では、古詩から絶句までバラエティーに富む作品が作られました。こうした形式・形態の問題について、鳥瞰的な視点から全体を考えてゆく必要があります。

 このワークショップでは、最新の研究成果の報告を踏まえつつ、幕末維新期の漢詩文の全体像とその特徴をどのように捉えるべきか、参加者全員で議論してゆきます。それは、この共同研究が主要な活動内容の一つとしている、新しい日本漢文学史の検討の、最初の具体的な作業ともなるはずです。

当日会場・時間・プログラム
交通案内(前回シンポジウムと建物は同じです、ただし今回、部屋は4階461教室です)

2015年4月5日日曜日

国際ワークショップ「幕末漢詩文の“かたち”」(4/10)の内容が決定しました

国際ワークショップ 幕末漢詩文の“かたち”
International Workshop on Bakumatsu Kanshibun: Various "Forms" of Classical Chinese Prose and Poetry Written by Japanese in the 19th Century

2015年4月10日(金) 午後5時~7時30分
大阪大学豊中キャンパス
文学研究科本館(4階)461教室

1 趣旨説明(17:00~17:10)

2 講演(17:10~17:40)
マシュー・フレーリ(ブランダイス大学・准教授)
幕末維新期の漢詩文における隠逸の「かたち」

3 発表(17:40~18:40)
青山英正(明星大学・准教授)
尊王攘夷表現における和歌と漢詩

日野俊彦(成蹊大学・非常勤講師)
森春濤「閨秀国島氏善和歌。予介人、乞近詠、得其暮春詠杜若一章。乃賦二十八字、以謝」詩ノート

福井辰彦(上智大学・准教授)
「小西湖佳話」の稿本について

合山林太郎(大阪大学・准教授)
豊前の漢詩人村上佛山の生涯と文事

4 全体討論(18:50~19:30)
コメンテーターからのコメント+通史に関するディスカッション

コメンテーター
福島理子(帝塚山学院大学・教授)
新稲法子(佛教大学・非常勤講師)
鷲原知良(佛教大学・非常勤講師)

主催:日本漢文学プロジェクト共同研究チーム、大阪大学大学院文学研究科日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター(国際古典籍学クラスター)
共催:国文学研究資料館・古典籍共同研究事業センター
連絡先:大阪大学大学院文学研究科 合山林太郞研究室 
℡06-6850-5680  Mail goyama@let.osaka-u.ac.jp

 

2015年度メンバー

2015年度は、以下の体制でプロジェクトを進めてまいります(新しい方の参加、また勤務先・職位などの変更があります)。ただし、これらのコア・メンバー以外に、連携や協力をお願いすることがあるかと存じます。その際は、お力添えのほど、何卒、よろしくお願い申し上げます。

浅見洋二    大阪大学・大学院文学研究科・教授
康盛国       大阪大学・大学院文学研究科・特任助教
金程宇       南京大学(中国)・域外漢籍研究所・教授
高兵兵       西北大学(中国)・文学院・教授
滝川幸司    京都女子大学・文学部・教授
中本大       立命館大学・文学部・教授
新稲法子    佛教大学・文学部・非常勤講師
仁木夏実    国立明石工業高等専門学校・准教授
福島理子    帝塚山学院大学・リベラルアーツ学部・教授
マシュー・フレーリ ブランダイス大学(米国)・准教授
町泉寿郎    二松学舎大学・文学部・教授
湯浅邦弘    大阪大学・大学院文学研究科・教授
鷲原知良    佛教大学・文学部・非常勤講師
合山林太郎    大阪大学・大学院文学研究科(コミュニケーションデザイン・センター)・准教授 (代表)

謝辞

プロジェクトがスタートして半年が過ぎました。ここまで多くの方のご助力をいただき、順調に進捗しております。このプログに関係することで、お世話になった方のお名前を挙げ、感謝の意を表したいと思います。

英語翻訳
トム・ファンダムさん
ダニエル・小林ベターさん
モハンマド・モインウッディンさん

中国語翻訳
靳越さん

ポスター・デザイン
平井華恵さん

このほか、シンポジウム運営など、多くの方のご支援をいただいております。心より御礼申し上げます。

2015年3月27日金曜日

国際ワークショップ「幕末漢詩文の“かたち”」を開催します(4/10)

国際ワークショップ「幕末漢詩文の“かたち”」
2015年4月10日(金)午後5時~7時30分
大阪大学豊中キャンパス
文学研究科本館(4階)461教室(変更可能性あり)

マシュー・フレーリ氏、福井辰彦氏、日野俊彦氏、青山英正氏らをお迎えし、幕末・明治初期の漢詩文の日本漢文学全体の中で見た場合の特徴、また、世界文学的な意義について考えてゆきます。詳細については、後日あらためて掲示いたします。

「第1回日本漢文学総合討論」(3/23)終了いたしました

50名近い参加者があり、活発な議論が行われました。多くのご意見をいただきましたことに、心より感謝申し上げます。当日の発表や質疑応答などの内容につきましては、以下のようにおまとめいただいております。

飯倉洋一氏によるまとめ(中継)
新稲法子氏によるまとめ
 (その1以降もあります。右ペインの下部にあるリンクからお進みください)

このほかにもコメントなどがございましたら、リンクを貼りますので、
nihonkanbungaku@gmail.com までご一報いただければ、ありがたく存じます。

趣旨説明プログラム



 

 


2015年3月17日火曜日

3/23のシンポジウムにご興味をお持ちの研究者以外の方へ

 このシンポジウムは、日本人にとって、漢文や漢詩がどのような意味を持つのかについて、みなで一緒に考えてゆこうというものです。

 パネル・ディスカッションは、文学や歴史の研究者が行いますので、やや専門的な内容となるかもしれません。しかし、たとえば、「元総理大臣の田中角栄が好きだった漢詩は?」など、文学研究とはやや趣きを異にするテーマも扱ってゆきます。 

 また、お好きな漢詩人や漢文作品、また、漢文教科書の記憶など、参加者の方に、日本漢詩文に関する印象や思い出について、おうかがしたいと考えております。

 楽しく有意義な時間を過ごしたいと存じます。多くの方のご来場をお待ちいたしております。

※3月16日の日経新聞夕刊(関西版)「カルチャーがいどガイド」に掲載されて以降、シンポジウムの趣旨について、複数のお問い合わせをいただきました。ありがとうございます。情報を、随時このブログに掲示いたしますので、今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2015年3月15日日曜日

「第1回日本漢文学総合討論」(3/23)パネルディスカッションの要旨です

パネルディスカッション1
「日本漢詩の古典化と近代の文芸批評及び教科書」
 日本漢詩文のうち、どの作品が、名詩や名文と呼ばれるかは、その時代時代の思潮や教育が大きな影響を与えている。本パネルでは、主として江戸時代の漢詩を対象として、明治期以降、どのような過程を経て、名詩となったか、すなわち、古典化されたかについて検討する。明治期以降を通覧した場合、とくに古典形成の動きがとくに顕著な時期として、明治30年代(1900年代頃)と、昭和40年代(1965~74年頃)を挙げることができる。
 明治30年代は、1904(明治37)年に国定教科書が採用され、それまで多様な試みがなされていた中学漢文教科書が一定の方向に集約され、掲載される漢文作品の質が統一的になった時期である。と同時に、小説などを通じて、広瀬淡窓「桂林荘雑詠示諸生」などの詩が一層人口に膾炙することとなった時期でもあった。
 一方、昭和40年代は、富士川英郎や中村真一郎が競うように江戸後期の漢詩人の作品を紹介した時期である。彼らの日本漢詩評価の背景には、ドイツ文学をはじめ西洋を強く意識した普遍主義的な詩歌観がある。真夏の昼下がりの山村の情景を活写した菅茶山「即事」(「渓村無雨二旬餘…」)は、富士川が取りあげて初めて愛唱されるようになったと考えられる。
 なお、本パネルでは、日本漢詩の海外における受容状況についても検討を行う。英語圏や中国では、どのような作品が知られているのかについて、翻訳状況や詞華集・注解書への収録状況から考えてゆく。

パネルディスカッション2
「祖述の様相-近世詩文の内なる唐土-」
 荻生徂徠によって首唱された古文辞学の拡がりは、たしかに近世詩壇における一大事件であり、徂徠を囲む蘐園派の詩人たちの精力的な活動は、木下順庵門下の新井白石や祗園南海、また梁田蛻巌らのすぐれた詩人たちが盛唐詩を重んじたのと相俟って、1720年代から約半世紀にわたる盛唐詩ブームを招来した。
 安永・天明のころ(1772~1789)反古文辞の気運が高まり、18世紀末から19世紀初頭にかけて宋詩風―ことに南宋詩に傾倒するもの―に詩壇が染められたというのが通説である。しかしながら、当然のこととして、盛唐詩風か南宋詩風かといった単純な色分けで実際の詩人たちの営みが捉えられるものではなく、例えば宋詩風の旗手とみなされている六如に深い杜詩への理解があったことは、黒川洋一らによって夙に指摘されている。
 反古文辞を掲げる詩人たちが否定したのは、「唐詩」を重んずることではなく、「盛唐詩に擬える」手法そのものであり、唐人よりも直接的には明人―明代の古文辞派詩人―に学んだ唐詩の受容のしかたにあったのである。この明人を介した盛唐詩の模倣ではなく、真の唐詩風の詩を賦すのだという主張は、古文辞派の流れを汲む龍草廬などにもすでにみることができる。ポスト古文辞の口火を切った大坂の混沌社や南宋詩風を取り込んで賦作を行った江戸の江湖詩社社友、六如の影響を受けて新風を開拓した菅茶山ら次世代の詩人たちにとっても、盛唐詩が詩の正鵠を得たものであるとの認識に相違はない。しかし、より新しい表現の可能性を求めて、また、自らの性情の発露としてよりふさわしい表 現を求めて、詩人らはさまざまな可能性を模索する。その模索は、すでに親しい漢魏六朝や宋代はもちろん、古文辞派以外の明人や清人の賦作にも及ぶのであるが、唐代に限っても、盛唐以外の詩人たちに注目する者、新奇なジャンルを開拓しようとする者が現れる。
 すなわち、それぞれの詩人たちが唐代の詩といかに対峙し、いかに受容したかを検証することは、極言すれば、江戸時代の詩史をたどることそのものにも等しい。
 本パネルでは、中晩唐詩の影響や竹枝詞の流行などさまざまな角度から唐詩受容の様相を探るほか、日本の詩人たちが唐詩からいかなる詩法を獲得し、いかなる詩論を学んだかという問題、さらには、明代古文辞派の朝鮮における受容を比較の対象とするなど、さまざまな方法論を提示しつつ、江戸時代における唐詩祖述の様相を明らかにしたい。

パネルディスカッション3
「日本漢文学の基層-宗教・学問・歴史-」
 日本漢文学史を記述するには、様々な視点、方法があろう。主要作品や作者を時代順に並べる方法はもっとも古典的であろうか。他にも典籍(漢籍)の享受に主眼を置く方法もあれば、表現方法の変遷(典拠となる素材、中国典籍・作品の変遷)などを辿る方法もあろう。
 本パネルでは、漢文学の「基層」という点に着目したい。漢文学の表現自体、作品自体を検討するのは当然であるが、それらの基づく、思想や学問、それらを生み出す制度や作者の立場に注目するのである。
 例えば、古代の漢文学は、律令社会と不即不離の関係にある。律令官僚の養成に必須の学問として儒学があり、儒学を学んだものこそが官僚として組織を支えていた。平安時代の漢詩人は、多くはそうした官僚であったのである。そうした制度、学問、人を基盤として、漢文学は支えられていたのである。
 本パネルでは、古代から近世までの日本漢文学史を、その「基層」の面から捉え直そうとする試みである。

2015年2月25日水曜日

第1回日本漢文学総合討論(3/23) 会場情報・問い合わせ先

会場の大阪大学豊中キャンパスの場所は、以下のとおりです。
阪急宝塚線石橋駅から徒歩15分
大阪モノレール柴原駅から徒歩15分

文学研究科本館は、下記地図の②の建物です。大会議室は2階にあります。
http://www.osaka-u.ac.jp/ja/access/toyonaka/toyonaka.html

本シンポジウムは、事前申込不要、参加自由ですが、ご不明な点があれば、下記までご連絡をお願いいたします(ポスター記載の連絡先でも問題ございません)。
nihonkanbungaku@gmail.com

2015年2月24日火曜日

第1回日本漢文学総合討論(3/23)の内容が決定しました

公開シンポジウム 第1回 日本漢文学総合討論
A Symposium of Japanese Kanbun : A Comprehensive Study on Chinese Prose and Poetry Written by Japanese, 2015
新しい学問の環境において日本漢文学をどのように研究していくかについて考えるシンポジウムです。多くの方の来場をお待ちいたしております。

2015年3月23日(月)10時30分-17時30分
大阪大学豊中キャンパス文学研究科本館大会議室

開会の辞・趣旨説明 10:30-10:40

パネルディスカッション1  10:40-12:10
日本漢詩の古典化と近代の文芸批評及び教科書
合山林太郎 GOYAMA Rintaro (大阪大学)
高兵兵 GAO Bingbing (中国・西北大学)
大阪大学学生チーム
鈴木加成太 SUZUKI Kanata  小杉優歌 KOSUGI Yuka 木村小百合 KIMURA Sayuri  熊田友里 KUMADA Yuri  羽原綾香HABARA Ayaka  吉川真史 YOSHIKAWA Shinshi

パネルディスカッション2 13:00-14:30 
祖述の様相-近世詩文の内なる唐土- 
福島理子FUKUSHIMA Riko (帝塚山学院大学)
浅見洋二 ASAMI Yoji (大阪大学)
康盛国 KANG Sung-Kook (大阪大学)
新稲法子 NIINA Noriko (佛教大学・非)
鷲原知良 WASHIHARA Tomonaga (佛教大学・非)

パネルディスカッション3 14:40-16:10
日本漢文学の基層-宗教・学問・歴史- 
滝川幸司 TAKIGAWA Koji (奈良大学)
中本大 NAKAMOTO Dai (立命館大学)
仁木夏実 NIKI Natsumi (国立明石工業高等専門学校)
町泉寿郎 MACHI Senjuro (二松学舎大学)
湯浅邦弘 YUASA Kunihiro (大阪大学)

全体討論 16:20-17:20
新しい日本漢文学の通史を考える

総括・閉会の辞 17:20-17:30
 
主 催: 日本漢文学プロジェクト研究チーム
大阪大学大学院文学研究科 日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター(国際古典籍学クラスター)
共 催: 国文学研究資料館・古典籍共同研究事業センター
連絡先:合山林太郎研究室  ℡ : 06-6850-5680  Mail : goyama@let.osaka-u.ac.jp (@=@)

2015年2月16日月曜日

About this project

This joint project entitled “The Analysis of the Canon Formation of Japanese-produced Classical Chinese prose and poetry and the Depiction of its overall history, for use in a Global Research Environment” is being conducted as part of the overarching project “Construction of the International Collaborative Network on Japanese Classical Books”, organized by the National Institute of Japanese Literature (NIJL).

http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/research_saitaku_26.html

The following two points will be considered in the course of this project.

1. The analysis of when and how a canon was formed from the Japanese-produced Classical Chinese prose and poetry. Through this analysis, the contexts of research and appreciation of Japanese-written Classical Chinese prose and poetry will be made clear.

2. The depiction of an overall history of Japanese-produced Classical Chinese prose and poetry from ancient to modern times, using the latest research results. This new history is intended to promote research worldwide.

Our project would benefit from the cooperation of researchers from related fields.  Should you be interested or have any questions, please do not hesitate to contact us.

2015年2月3日火曜日

紹介文を『書物学』(勉誠出版)に寄稿しました

「日本漢文学についての新しい通史を描く―「日本漢文学プロジェクトの概要と背景―」(『書物学』第4巻、勉誠出版、2015年1月)を発表いたしました。  勉誠出版のページ

3月23日(月)に大阪大学で開催されるワークショップにおきまして、日本漢文学の通史をめぐる問題についてディスカッションいたします。多数の方のご来場をお待ちしております。詳細は、まもなく掲示いたします。

2015年1月27日火曜日

論文「永井荷風による館柳湾評価の背景」

プロジェクトの最初の成果を発表いたしました。近世日本漢詩のキャノン・フォーメーション(古典形成)に関する論文です。

合山林太郎「永井荷風による館柳湾評価の背景-明治期漢詩人の江戸漢詩に対するまなざし」(『語文』103号、2014年12月)   →国立国会図書館の書誌

2015年1月19日月曜日

シンポジウム「第1回 日本漢文学総合討論」を開催します

3月23日(月)に、「第1回 日本漢文学総合討論」(大阪大学豊中キャンパス、10:30~17:30〈予定〉)を開催いたします。日本漢文学の通史のあり方について、参加者全員での総合討論の時間を設け、皆様からご意見を頂戴したいと考えております。多くの方のご来場をお待ちいたしております。詳細が決定し次第、プログラムを掲示いたします。

第2回研究会を開催しました

1月10日(土)に第2回研究会が開催され、本プロジェクトの活動の柱である日本漢文学の通史の記述のあり方について議論が行われ、方向性の決定と認識の共有がなされました。具体的な作業が開始となり、メンバー一同、「さあ、これから」と気を引き締めております。