2016年7月31日日曜日

ワークショップ「『ケンブリッジ日本文学史』を読む」を終了いたしました

17名の参加者があり、General Introductionを中心に、言葉の用い方の背後にある、英語圏の研究のコンテクストなどについて、フレーリ先生にお尋ねしながら、なごやなか雰囲気の中で、議論が進みました。討議の内容につきましては、後日、その概要を掲示いたします。





2016年7月22日金曜日

今日の高校の国語教育と日本漢詩文 (パネル「日本漢文学研究を“つなぐ”」より)

現在、国文学研究資料館における日本語の歴史的典籍国際研究集会(7月29、30日)に向けての準備が進んでおります。当日はウェブでの中継があるとのことです。遠方の方も、以下のページから御覧いただければと存じます。
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/sympo20160729.html

私たちのパネル「日本漢文学研究を“つなぐ”」では、①通史的な分析、②国際発信、③社会連携の3テーマについて報告することを予定しております。このうち、「①通史的な分析」に関しては、「日本人は、漢詩を誰に向けて作ったのか(どのような読者を想定して作っていたのか)」という視点から、古代・中世・近世それぞれの時代の漢文学のあり方について議論してゆく予定です。また、「②国際発信」については、英語圏、フランス語圏における日本漢文学の研究の状況や関心の所在について発表してまいります。

「③社会連携」につきましては、報告中、言及することはあると思うのですが、十分に議論をする時間がないと思いますので、ここで意図していたことについて記させていただきます。

これまでに蓄積された日本漢文学研究の成果をどのように社会に還元してゆくかということは重要な課題であり、その際、とくに注意すべきは、教育との関わりであると考えられます。今日、多くの人々が漢文に触れるのは、国語(古典)の教室であるからです。

中等教育について見るならば、今日、日本漢詩文は、学習者の眼に、以前より触れやすくなったように感じます。たとえば、現行の高等学校学習指導要領には、「教材には、日本漢文を含めること。また、必要に応じて近代以降の文語文や漢詩文、古典についての評論文などを用いることができること」(17頁、「古典B」の項)と記されています。

また、高等学校国語学習指導要領解説 には、「我が国の文化において漢文が大きな役割を果たしてきた」(66頁、古典Aの項)、「日本人の思想や感情などが、漢語、漢文を通して表現される場合も少なくなかった」(同)、また「中国の漢文だけではなく、その影響を受けて日本人がつくった漢文も取り上げ、我が国の文化と中国の文化との関係について考えることは、我が国の伝統と文化を理解することに資するものとなる」(70頁、古典Bの項)などの記述とともに、日本漢文を学ぶことの意義が説明されています。

実際に、現行の古典Bの教科書のほとんどは、「日本漢詩文」の見出しを立て、日本人の手になる漢詩・漢文を収録しています。以下に現在使われている教科書における収録状況の概況を記します(この表は、調査などに不十分な点があり、完全なものではないことをお断り申し上げます)。


作品名収録教科書
菅原道真「九月十日」教育出版「古典B」
菅原道真「不出門」桐原書店「古典B・漢文編」、第一学習社「古典B・漢文編」
菅原道真「読家書」明治書院「古典B・漢文編」
菅原道真「梅花」( 宣風坊北新栽処. 仁寿殿西内宴時…)数研出版「古典B・漢文編」
菅原道真「送春」(『和漢朗詠集中の「送春不用動舟車、唯別残鴬与落花」)東京書籍「精選古典B・漢文編」
絶海中津「題野古嶋僧坊壁」数研出版「古典B・漢文編」
義堂周信「深耕説」(空華叟郊居…)明治書院「古典B・漢文編」
石川丈山「富士山」明治書院「古典B・漢文編」
菅茶山「冬夜読書」三省堂「精選古典B」、教育出版「古典B」、第一学習社「古典B・漢文編」
頼山陽「泊天草洋」三省堂「精選古典B」
頼山陽「題不識庵撃機山図」大修館「古典B・漢文編」
頼山陽『日本外史』(「信玄何在…)教育出版「古典B」、筑摩書房「古典B」、数研出版「古典B・漢文編」
頼山陽『日本外史』(所争在弓箭不在米塩…)」大修館「古典B・漢文編」、東京書籍「精選古典B・漢文編」
頼山陽『日本外史』(諸将服信玄…)」東京書籍「精選古典B・漢文編」
頼山陽「『日本外史』(教経驍名…〈能登殿最期〉)明治書院「古典B・漢文編」
廣瀬淡窓「桂林荘雑詠示諸生」三省堂「精選古典B」、教育出版「古典B」、大修館「古典B・漢文編」
釈月性「将東遊題壁」大修館「古典B・漢文編」
成島柳北「火輪車中之作」桐原書店「古典B・漢文編」
森鷗外「航西日記」三省堂「精選古典B」
正岡子規「送夏目漱石之伊予」〔『子規全集(講談社版)』8巻・568番・349-350頁〕三省堂「精選古典B」、第一学習社「古典B・漢文編」
中野逍遙「思君」桐原書店「古典B・漢文編」
夏目漱石「無題」(秋風鳴萬木、山雨撼高楼…)〔明治43年(1910)9月20日、『漱石全集』18巻・78番〕明治書院「古典B・漢文編」
夏目漱石「題自画」(碧落孤雲尽、虚明鳥道通…)〔大正3年11月、『漱石全集』18巻・125番〕三省堂「精選古典B」、教育出版「古典B」、
夏目漱石「題自画」(唐詩讀罷倚闌干、午院沈沈緑意寒…)〔大正5年春、『漱石全集』18巻・133番〕大修館「古典B・漢文編」、数研出版「古典B・漢文編」

本パネルでは、こうした教科書に掲載された漢詩や漢文について最新の解釈を紹介し、教科書にいかなる日本漢詩文を収録するのがよいかといった事柄についても検討を行いたかったのですが、十分な時間がとれそうにありません。

こうした問題については、今後皆様とともに考えてゆきたいと思います。もし、ご意見などございます場合、以下までいただければ、たいへんありがたく存じます。
nihonkanbungaku@gmail.com

2017年8月21日追記 表の内容を一部修正いたしました。